今回はそれに似た初心者の話。
TRPGゲーマーの中には、2〜3のゲームをそつなくプレイし、GMができるゲームが1つはあるという十分即戦力になる技量がありながら初心者を自称している人が結構います。場合によってはそれ以上の経験がありながら。
そういう人ってのは、プレイ経験を問われればつい「いやいや、僕はまだ初心者ですよ」と答えてしまいます。何度か遊んでいるゲームでも「まだ初心者です」と断ってしまうし、初心者卓など立とうものなら本当の初心者を押しのけてでも入ってしまいます。
彼ら「まだ初心者」組は扱いに難しいところがあります。
初心者を名乗っても経験は中級者ですから、GMの問いかけに答えるのが主の模範的初心者プレイヤーの行動から一歩抜け出し、ちょいとクセのあるキャラクターを作ったり、小粋な演技をしようと試みます。
初心者卓のGMとしては厄介です。GMとしては、それ以前の「何をやっていいのか分からない」という真の初心者にTRPGの基本的な流れを教えるべく卓を立てているのに、そろそろ自分の創作意欲の赴くままにキャラクターを自作・演技したいと意気込む「本来なら」中級者である人が混じってくるのです。
そういう卓だと、初心者がTRPGの流れをつかむ学習活動はしばしば阻害されます。
初心者には、何はともあれセッションが成功するよう模範的なゲームプレイを教え込む必要があります。しかし、「まだ初心者」は模範的ゲームプレイから抜け出し、ゲームをカオスへと導くゲーミングを習得する時期に入ってます。彼らのカオティックなプレイは必ずしも初心者に見せていいものではありません。
それどころかGMがいつの間にか、彼ら「まだ初心者」に中級者としてのコーチングをする羽目に陥ることもしばしばあります。そして、その「演技指導」を目の当たりにして、初心者がTRPGの流れを理解する前に「演技」するのがTRPGだと学習してしまう危険があります。
かくして、そんな初心者卓ではセッションを崩壊へと導くいびつなキャラクタープレイヤーが育っていくことになります。TRPGの流れを理解せぬまま演技を覚えた初心者は、「ゲーム世界を構築する」ゲーミングと、自己陶酔する「なりきり演技」とを取り違えて、場を白けさせたり他のプレイヤーを怒らせたりするだけではなく、NPCとの交渉をフイにしてシナリオを手詰まりさせたりとプレイにも悪影響を与えます。
そんな初心者が無事にTRPGゲーマーとして独り立ちする可能性などないに等しいものです。
初心者にまず独力でTRPGをやっていける技量を覚えさせるために、本当の初心者と「まだ初心者」とは厳しく分別するべきでしょう。
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ところが、「まだ初心者」はもう1つ厄介な所があります。
彼らは意欲、経験は中級者なのですが、意識の面では真の初心者と大して差がないのです。
すなわち、中級者として自ら卓を選び、お荷物にならないようゲームプレイングをこなし、他の参加者とのコミュニケーション技術を学ぶという「自主学習」の時期には入りたくない。やっぱり最初に優しくしてくれたGMさんの所から離れたくない。見知らぬゲームをする勇気がない……そういった「巣立ちへの恐れ」を彼らは抱えているのです。
そんな「まだ初心者」をむりやり非初心者向け卓に放り込むと、萎縮してお地蔵さんに陥る危険があります。
実の所、彼ら「まだ初心者」は巣立ちする雛鳥と一緒で、まだ卓という巣の周りしか世界を見ていない人たちであることが多いようです。サークル全体の中で、自分とは卓を共にしたこともない人たちを見る余裕もなければ、TRPGサークルという「群集」にもまだ馴染めていません。
「まだ初心者」の人が中級者になるためには、まずサークル全体を意識させる活動が必要なのです。具体的には会場の設営や後片付け、アンケートの集計や会誌への投稿依頼など、サークル活動に積極的に参加させて、ゲーム以前にまずプレイヤー同士が活動員として交流を持つことが、彼ら「まだ初心者」が独り立ちするきっかけとなります。
とりあえず、誰の手助けもせずに卓を任せられるようになれば立派な中級者です。
そこから、自らが教科書となって後進を育てていくという上級者の勉強に入ることになります。
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前回、優れたプレイ仲間を呼んでくるのが真の上級者、取り巻き奴隷しか集めないのが僭称上級者だと述べましたが、後進の教育という面でもその差がでます。
つーか、真の上級者が優れたプレイ仲間を呼べるのは後進に自立して活動できるよう教育した賜物だからです。自分がいなくても、それぞれが独自に卓を立ててサークルを盛り立てる自主性がきちんと訓練されているから「優れたプレイ仲間」なのです。そして、彼ら自身もさらに仲間を呼べる人脈があります。
それに対して取り巻き奴隷は僭称上級者の意を汲んでプレイしているから、黙っていたら誰もセッションを主催はしない。非番の時はコンベンションに散らばるだけで、サークルを盛り立てるなどという全体的な立場に立つ顔ではありません。人脈は当然ながら断絶してます。
「まだ初心者」の中には僭称上級者に絡めとられて取り巻き奴隷となり、そのまま1人立ちすることなく何年も活動してしまう人すらいます。そういった人はやがて僭称上級者がTRPGを辞める(「取り巻きを従えて王様ごっこをしている」という幼稚なことをしている以上、醒めるのは早い)と行き場を失い、孤独な「ロンリーゲーマー」となります。
ロンリーゲーマーはとにかく人脈がないから、ゲーマーとして立ち直るのは困難と云えましょう。コンベンションを渡り歩いて飢えを凌ぐか、すべてを捨てて新しいサークルに入って一からやり直すか……どちらも茨の道です。
そうならないためにも、きちんと人脈を結べるゲーマーになるべきだし、後輩にもそういうゲーマーに育てるべきなのでしょう。
僕も何年かリタイアしていた経緯から、ロンリーゲーマーとして寂しい状態が続きました。
今の繋がりを大事にしていきたいです。