異世界のお酒(一本足の蛸)
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ビールとエールの違いは『エッダ』の中でトール神とドワーフのアルヴィスとの対話集とも呼ぶべき、『アルヴィスの歌』の中でこう述べられています。
トール:答えよアルヴィス。ドワーフのお前は人の宿命について何でも知っているのだな。ならば人々が飲む麦酒(heitir)は世界では何と呼ばれているのだ?
アルヴィス:人間はヘイティル(heitir)と呼ぶ。
アースの神々はビョール(bjórr)と呼ぶ。
ヴァンの神々はヴェイグ(vanir)と呼ぶ。
ヨトゥンたちはフレイナレグ(hreinalög)と呼ぶ。
ヘルヘイムではミョド(mjöð)と呼ぶ。
スットゥングの子らはスンブル(sumbl)と呼ぶ。
アルヴィスの歌(古ノルド語・ブロガー訳)
▼用語の意味
・ヘイティル:エール
・ビョール:ビール
・ヴェイグ:泡立つもの
・フレイナレグ:輝く飲物
・ミョド:蜜酒(ミード)
・スンブル:宴の飲物
・アース:オーディン、トールらが属する神族
・ヴァン:フレイ、フレイヤらが属する神族
・ヨトゥン:巨人
・ヘルヘイム:ロキの娘・ヘルが住む冥府。ニヴルヘイムとも。
・スットゥング:エッダにおいて、クヴァシル神の血から作られた「詩人の霊酒」を守る巨人。
このように、麦酒の事を人間界ではエール、神界ではビールと呼んだことが両者の違いだそうです。
ちなみに、エールは古ノルド語も属するインド・ヨーロッパ祖語のalu(エル/酔う、魔術的な、ほどの意)、ビール(beer)はラテン語のbibere(ビベーレ/飲む)が語源とされています。
ビールと云う言葉は昔は酒であるビールではなく、サイダーのような発泡飲料を指していたという説もあります。前述のクヴァシル神の名が由来とされるロシアの発泡飲料・クワスはライ麦と麦芽を発酵させたジュースですが、それに近い飲物を指していたのかもしれません。
ビール発祥の地は古代メソポタミアで、シュメール人がパンを湯で溶いて発酵させたものを藁のストローで飲む「シカル」が最初だと云われています。それがバビロニア、エジプト、そして紀元前1800年頃にはドイツでも作られていることがタキトゥスの『ゲルマニア』に記されています。この時代はまだホップが栽培されておらず、クワスに近い飲物だったのでしょう。
麦から直接ビールを作ったのはゲルマン人との事。ワインが主流のローマ人にはビールは野蛮な飲物でありました。
イギリスには9世紀頃にはエールを提供するエールハウスが各地で開業していました。その基はローマ人がイングランドの街道に構えた駐屯地であり、12世紀以降には宿泊・食事・娯楽の3要素が詰まったファンタジーでもお馴染みのインが定着したそうです。
ビールにホップの組み合わせが普及したのは14世紀頃。それ以前は各種薬種を混ぜていたが、ホップが特に抗菌性が高かったからか、1513年にはバイエルン候ヴィルヘルム4世が「ビールは大麦、ホップ、水以外の原料を使用してはならない」と云うビール純粋令を出すに至っています。それ以前にも市町レベルでビールの規定が定められており、その課程でラガー(貯蔵)・ビールが誕生しています。
エールとビールの違いは、エールが常温、ビールが低温で発酵することにあります。ラガー・ビールに使うビール酵母は低温で活性化するため、発酵には洞窟などの涼しい場所が必要ですが、エールよりも大量に作れるという利点があります。
ラガー・ビールはビール酵母によって長期間発酵させたビールであり、秋に収穫した麦を洞窟で貯蔵し春に取り出して飲料としました。
日本人にもお馴染みのピルスナーはチェコのピルゼン地方に伝わるビールで9世紀頃にはホップを使ったビールを造っていたようです。前述のビール純粋令を出したバイエルンではその後、禁止されていた小麦を使ったビールを貴族や僧侶らには免除され独占してきたことから、「貴族のビール」と呼ばれるヴァイツェンが生まれました。
19世紀になると冷却施設が整い、1883年にカールスバーグ社によって酵母の純粋培養が成功すると、ラガー・ビールは一躍世界的な飲物となりました。
北欧神話ではエール、ビールと混合される酒として蜂蜜酒/ミードがあります。スットゥング一族が管理する「詩人の霊酒」もミードですし、ワルキューレが死者の館で戦死者をもてなす酒もミードとの事です。
ミードは蜂蜜のワインとされていますが、エッダなどに出てくるミードは蜂蜜と水を混ぜて酵母で発酵させたシャンパンに近い発泡飲料のようです。
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今日はここまで。
ちなみにエールは中国語で「強麦酒」との事。






