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《禁酒の誓い》を立てたがばかりに久々に酒場ネタ。
こういうセッションが沢山行われていたのが昔のTRPGなんだよな最近の新参はいきなり世界を救いたがるから困ると、酒、麻薬はおろかカフェイン飲料も摂取できないパラディンと仲間たちは依頼そっちのけで健康的冒険者の道を模索していた…。
前回オレンジジュースが飲めなかったパラディンが次に頼んだのが牛乳。いかにもヘルスィ志向のアメリカ人が頼みそうな飲物だったのだが…。
DM「喫茶店の若い娘…給仕さんは蒼ざめた顔でこう叫ぶよ…、
牛乳だなんて、病気にでもなりたいのですか…!
と」
パ「はい?」
●「牛乳で病気って…。DM、もしかしてこれがシナリオかい?」
▲「邪悪なネクロマンサーが牛に呪いをかけたとか…」
かくしてようやく重い腰を上げた冒険者一行は情報収集に乗り出し…、
DM「結局、そんな邪悪なウィザードはおりませんでした。街の乳製品は どれも清浄でした」
●「分かったのは、街には牛乳が一滴もないことだ…」
▲「ありえへん。街の連中はこぞって牛乳嫌いか?」
DM「そうだね。《真意看破》の目標値10で判定して」
▲「今度は簡単だな…。成功したよ」
DM「うん。街の人は牛乳なんて飲むものではないと心底感じているよ。君たちのPCも。そして全世界の人間もエルフもドワーフもノームもハーフリングもハーフオークも。ノールですらもね」
●「なんだって! そんなバカな…」
DM「いやだって、ルルブの価格表には牛乳ないし…」
▲「あらホント…」
牛乳が飲料となったのはここ150年ほどの話です。
我々が日常的に飲んでいる牛乳は生乳(搾ったままの乳)を加熱殺菌したものですが、その技術が確立するのは1880年、フランスの細菌学者、ルイ・パスツールによる低温殺菌法(パスチャライズ)開発からです。摂氏60度前後で30分加熱するこの技法は当初、ワインの腐敗を止めるために研究された技術です。
そもそも牛乳は腐敗がしやすい上に脂肪分が分離しやすく、また乳糖が体内に消化しきれずお腹を壊しやすいという性質ゆえに、長く生飲が嫌悪されてきた食品です。それゆえ、西洋では長らくバターやチーズに加工して食べるのが常識でした。
欧州において牛乳の飲用が始まるのは20世紀に入り、低温殺菌法に加え、鉄道機関の発達や冷蔵庫の発明により、都市住民も新鮮な牛乳が手に入るようになってからです。
牛を聖なる動物と崇めるインドでは牛乳は神聖な食材であり、神々の食料とされたアムリタや、仏陀が苦行の果てに少女から恵まれた飲物はダヒと呼ばれるヨーグルトであったとも云われています。
牛乳を煮詰めて冷却し、前日作ったダヒの残りを入れて攪拌して作るダヒを水で薄めたのがインド料理でお馴染みのラッシーです。
モンゴルでは馬乳が重要な食材であり、子馬を育て終えた母馬の乳を革袋に入れて攪拌し、馬乳酒として飲用しています。馬乳酒はアルコール度数が低く、酒というより食料とされてきました。
ちなみに、1919年に日本の実業家・三島海雲が内蒙古で出会った馬乳酒を元に脱脂乳を乳酸発酵させてカルシウムを添加した飲料がカルピスです。
馬乳酒の技法はロシアやコーカサス地方にもあり、彼らは牛乳を革袋にいれ、戸口に吊るして攪拌してケフィールと呼ばれる乳酸飲料を作ってきました。
ヨーグルトなどの発酵食品が欧州に伝播したのは19世紀末。ロシアの医学者、イリヤ・メニチコフがブルガリアを旅行した際、当地にあった長寿村の秘訣がヨーグルトにあると注目し、健康食として紹介したのが始まりです。
中世欧州文化を機軸にしたファンタジー世界でも、衛生面の問題から牛乳の飲用は病気の原因として嫌悪され、多くがバターやチーズに加工されているでしょう。遊牧民族風の文化を持つ種族がヨーグルトなどの乳酸飲料を作っている可能性はありますが、蛮族の飲物として市民は同じく嫌悪するかもしれません。
●「結局、牛乳も安全な飲物ではありませんでした、か…」
▲「欧米人は牛乳をガブ飲みしてるイメージあるからなぁ」
パ「またしてもオーダー変更か…」
DM「…すると君たちの前に1人の黒いローブをまとった痩せて青白い男が現れます。彼は牛乳について聞き回っている冒険者がいると聞いて駆けつけたと云います」
●「はい?」
DM「彼はある秘術の研究の協力者を探しているようだ…。彼曰く、素晴らしい滋養飲料である牛乳が腐敗しやすいので嫌悪されているのは惜しいことではないか…。もし秘術の力で腐敗を止められば、人々は牛乳の恩恵を受けられることになり、これを商売とすれば大いなる富が手に入るであろう…」
パ「おお…、素晴らしい発想」
▲「いや…、それはいいんだけど。その黒ずくめの男の職業は…?」
DM「ええ。ウィザードです。
ネクロマンサーですけどね」







