勧誘に「子守の役があるし…」と渋る朱仝に対し、梁山泊のポブ・サップこと李逵が「子供ならあっちでバラしたぜ」といきなりバイオレンスな手段に出て、しかも「殺したのは朱仝だぜ」と書置きする始末。哀れ朱仝は泣く泣く山賊となりました…ってな一節があります。
『スレイヤーズ!』ではないけど、シナリオ解決のためなら、あるいは自分のキャラクター設定を活かすためなら、いわんやみんなで笑い転げるためなら街を破壊しようが胸クソ悪い悪行をしようが「ま、いっか」で済ませるのがTRPGの冒険者というものです。そういうキャラをイヤイヤやってるプレイヤーなんてのはいないも同然で、大抵がプレイヤーの「そういうのやってみたかったんだよ」ってな願望がストレートに出てるだけです。
そういうことがまかり通る背景としては、シナリオが終われば犯罪もチャラになるTRPGの習性……GMとして犯罪者PCを追い立てる展開になれば単純な戦闘ゲームと化して負担も大きくなる……があります。GMとしては単純で不毛な展開になるのを防ぎたいがための処置なのに、それでプレイヤー側が自分たちが楽しむためならどんなロールプレイも許されると思い込むようになるのなら、それは思い上がりというものです。
『サイバーパンク2.0.2.0』ではライフパスによって、誰でも親兄弟や恋人を失ったり裏切られたり、戦場や無法地帯で向背常ならぬサバイバルをしたとかいう過酷なダークヒーローが手軽に作れます。僕がこのゲームに入ったのはRPGマガジン掲載のリプレイ、『振り向けば死』(後に『トーキョーN◎VA』でリライト)からでしたけど、チームプレイが当たり前の時代
に、PC同士が折衝するスタンドプレイ形式の物語だったこのリプレイは非常に衝撃的でした。
今でこそF.E.A.R社のゲームではすっかり定着したスタンドプレイでしたけど、当時はパーティ内の役割分担こそがPCの立ち位置を示す基本水準でしたし、1箇のスタンドアローンなキャラクター同士がプレイ中にどうコンプレックスを結んでいくのかという観念はとても希薄だったと思います。
だから、当時は夢にも思わなかったんです。
どんなTRPGでもスタンドアローンの状態を前提にキャラメイクをする人がボコボコ出てきて、チームプレイが期待されるゲームであってもPC同士の歯車合わせをしなくてはならない事態が多発するようになろうとは、ね。増してや、『サイバーパンク2.0.2.0』ばりの過酷なダークなライフパスを、それが相応しくないゲームや、それを行う必要がまったくないゲームでもわざわざ設定する人が出てくるようになろうとは。
ファンタジーでもサイバーパンクでも、いわんや学園物でもGMにとってイヤなキャラクターは「傭兵」でして、もう十中八九が『フルメタル・パニック』の真似キャラです。
過酷な戦場で愛する者を失い、あるいは復讐の鬼と化したサイバーソルジャー。
人を見たらゲリラと思え。危害を加えるのは敵だ、危害を加えないのは訓練された敵だ。疑わしきは殺せ。敵の罠はいたる所にある。善良な敵は死んだ敵だ……etc、etc。『サイバーパンク2.0.2.0』なら人間性はエッジぎりぎり、『GURPS』なら妄想と偏執狂などで−20CP以上の不利な特徴を戴くようなキャラが『ソードワールド』とか『無限のファンタジア』とかでは何の制限もなしに作ることが可能です。いわんや、『特命転攻生』ですらも。
……特命はフルメタでない方が稀だけど。
それで、そういうキャラがプレイ中に何をするのか。
僕の経験から語れば、プレイ中にバイオレンスをやらかします。それも己のキャラ設定は予告編だぜと云わんがばかりの胸クソ悪いバイオレンスをします。まずはニヒルなダークキャラクターをやりたいという願望があり、それをライフパスによってあたかも不本意ながら設定に従うという自己暗示が糊塗するのです。
◆◆◆
僕が一番胸クソ悪い思いをしたのは、運搬していた荷物が荷車の車軸が折れたために、街の通りに散乱するというイベントシーンを演出した際のこと。状況を活弁するために「散乱した積荷に通りの人々が群がりだしてきた」とアドリブを言いました。
ここでいきり立ったPCたちは剣を抜いて周囲を制圧。通りの住民を1人1人ボディチェックして積荷を回収する行動に打って出ました。それでもわずかな量は路地に逃げ込んだ子供たちによって取られてしまったとか言って適当にやり過ごしました。GMとしては修理までの間、PCたちを街に足止めさせるのが目的でしたけど、すでに目論みは大失敗でした。
だが、ここからの展開が凄くて、「盗まれた積荷の中にイベントに関係する重要なアイテムがあるはず」と勘繰ったプレイヤーたちは設定してもしない子供たちを追い立てることを決め、メンバーの中でシーフ技能を持つ傭兵キャラに任されました。もちろん、他のメンバーは彼が「やっちゃう」キャラ設定にしていることなど気がつきませんでした。
ええ。彼はやっちゃいました。
冒頭で水滸伝のエピソード紹介しましたね。
やっちゃいました。
んで、普通はその傭兵キャラやってるプレイヤーにジト目がいくと思うでしょ。
ところがプレイヤー一同は積荷の中に重要アイテムがあるのではという疑念を捨てきれず、結局は傭兵プレイヤーの行動を「ま、いっか」と黙認してしまいました。
これで苦境に立たされたのが、そんな重要アイテムなんか設定していなかったGM(僕)です。傭兵プレイヤーの暴挙を「必要悪」にしなければ……彼の行動をシナリオ的には正当化しなければ、プレイ終了後に揉めるのは必定。
かくして、ただの小麦粉だった袋は阿片に大変身。依頼人が突如悪役になってラスボスと結託。惨殺された子供たちも実はゴブリンが幻術で化けてただけでしたなんてアドリブをするハメになってしまいました。
プレイヤー一同、「なぁんだ。やはり罠だったんだな」などと自分たちのロールプレイはクレバーだったと満足。
当初のシナリオは「不作の村に食料を届ける」だったのに……。
つーか、街中で住民を武力制圧して臨検をした時点で追いはぎと誤認される可能性大だし、子供を殺したのは立派な犯罪。本来なら警備兵を動員して追い回しても良かったんですけど、そういう展開に耐えうるだけの情緒を持ったプレイヤーたちではなかったので、シナリオを曲げてでも彼らの行為を正当化する必要がありました。
それで、当の傭兵プレイヤーはと云えば、さすがにバイオレンスを起こして負い目があったのか、最後の戦闘では他のプレイヤーを庇ったりして大ダメージを受けることで禊を済ませたようです。
これも傭兵キャラをやるプレイヤーによくある傾向ですが、自分のダーティなロールプレイを純化させるために好んで禊をします。具体的には、ラストの戦闘で自己犠牲的な玉砕をして、自分のキャラクターを破棄する禊をよくやらかします。
フルメタ的傭兵キャラをやりたがるプレイヤーの多くが一時的憧憬が動機ですから、一旦プレイしてしまえば情熱が冷めてしまって、同じキャラを2度も使う気が起こりません。だからキャラが死んでも一向に構わないわけで、むしろアフタープレイの悶着を回避し、あわよくば未熟な仲間からいいロールプレイをしたとリスペクトを受けるのならば、一発屋キャラの死など安い代償です。
そういうキャラを用意されると、困るのはGMのみなんですよね。
プレイ中に、シナリオとは関連なく無差別テロをやりますと言ってるようなモンですから。彼のバイオレンスによるシナリオの混乱と、そのまま終われば印象大幅ダウン確実の彼のフォローをする手間がGMの負担となるわけですから。
◆◆◆
僕はTRPGの冒険者は、梁山泊の山賊とは違うと思っています。
梁山泊の山賊たちは、宋王朝の腐敗と戦う大義を謳っていますが、そのためには戦争や殺戮はするは、無辜の人士を謀略で犯罪者に仕立てて仲間に引き込むはで、無法の限りを尽くしています。そもそも彼らは山賊であって、旅人を襲うのは職業的に正しいことです。
TRPGの冒険者もエミャレイターの侵略を防ぐとか、ヴァーレス・ライヒの暴虐と戦うとか大義だけはきちっと設定されていながら、実際の行動律についてはノータッチであることが多く、そのために無法者化することが多々あります。サイバーパンクやダークファンタジーのように、PCも無法者でないと駆逐されるぞという「のっぴきならない」世界観で無法者化を推奨するゲームもあります。
無法者化したPCたちの行動は、それはそれで楽しいんですけど収拾するのがとても大変で、一旦躁状態から抜け出せば、日本国民としてまずまずモラルを持って生きているTRPGゲーマーとしては胸クソ悪い思いをすることは確実で、それがプレイヤー同士の衝突の原因となったり、以後のプレイに悪いしこりを残したりします。
プレイに悪いしこりを残さないためにも、プレイヤーにはきちんと「これはやっちゃダメ」という行動律を教え込む必要はあるかと思います。それはGMが統制するべきことですし、依頼人役のNPCの立場に立って、依頼内容としてきちんとロールプレイするべきでしょう。
PCが殺人をしても証拠隠滅が出来る依頼人なら暗殺もOKだし、依頼人が暴君ならば大っぴらに殺戮をしても大丈夫でしょう。これがただの商人ならば公権力とのトラブルは避けたい所ですし、純朴な少女だったりしたら彼女の純真さを傷つける行為はすべてNGです。
PCがどれだけ蛮行が許されるのかといった行動律は、PCのライフパスや世界観が決めるのではなく、シナリオを依頼するNPCの立場が決めるのです。
ただ、傭兵キャラや復讐鬼キャラを用意してくる人って、自分がキャラ設定で予告した通りに復讐劇などをやらしてくれないシナリオだって感じると、参加ボイコットとかする悪癖があります。プレイへの参加は最低限のルールですけど、それすらやらないでいるのは今更言うまでもなくマナーに欠けた行為です。
だが、現状では「自分のやりたいようなキャラクターをプレイする」という欲求を上回る精神は育まれていません。プレイを選り好みしてでも自分好みのキャラクターをやりたいという要望からなるトラブルは当分の間は続きそうです。






