2008年03月22日

『パワープレイ』に捧げる挽歌 〜TRPG作品が使命を終えるとき〜

 春分の日を利用しまして、かねてからやりたかった秘密プロジェクトを始動しました。もうすでにお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、今後はそちらの方でもまったり活動していきますので、よろしゅうご贔屓にお願いします。
 
 今日は1つのTRPGが使命を終える時の話。
 
 2007年は『ナイトウィザード』、『シャドウラン』、『六門世界RPG』、『ナイトメアハンター・ディープ』、『マルス2nd』など改訂版が多く登場し、今年に入ってからも『深淵』、『セブン=フォートレス』が装いを新たにし、それにD20システムで『メタルヘッド』、『ワースブレイド』が続きます。

 その一方で、再販の声もかからず忘れ去られたTRPGもあります。
 もちろん書籍形態のTRPG、持ち出せば何年経とうがプレイできますし、そのTRPGが「ある」限り、使命を終えたなどと宣言するのは早すぎると思う方もおりましょう。
 だが、「ある」にも関わらずプレミアもつかない。中古品が安値のまま放置され、TRPG系Blogなどで懐古する者もおらねば、再販の声も聞かれない。プレイ歴3〜5年の若手の間では断絶状態。そんなTRPG作品は自然発生的に再起することは至難であり、使命を終えたと断じてもいいのではないのでしょうか。

 今回はそんな使命の終わったTRPGの1つとして、『パワープレイ』を挙げたいと思います。高校時代によくプレイしたゲームの1つです。

 『パワープレイ(以下PP)』は和製『D&D』を目指した作品でした。
 そのシステム構成は『D&D』とほぼ同じで、種族&職業、能力値と判定、戦闘システム、魔法、モンスター、成長、その他の諸ルールで成り立っています。まだ状況再現システム(作品の特色を出すための特例ルール)が存在しない、原始的なダンジョン探索ゲームをするためのTRPGです。

 PPの特徴は以下の3つが挙げられます。

・複数個のD6を振らせるが、1つでも1の目が出れば失敗(ランダム性の強い判定)
・魔法や武器には能力値制限があり、能力値を上げて段階的に習得する(ビルドアップを前提とした作り)
・経験値が「(レベルの合計)×(プレイ時間)×100÷(人数)」(ダンジョン探索を目的とした経験値)

 僕は、この3つの特徴全てがカッコで示す通り、新和版『D&D』での基調プレイ……プレイ時間のほとんどをダンジョン探索に費やし、ランダム性が高い危険な戦闘や探索に挑み、できる限りじっくりと時間をかけて探索をしつつ生存することをゲーム目標とし、その褒賞としてキャラクターをビルドアップし、さらに脅威度の高いダンジョンに挑む……をするためにデザインしたものと考えています。

 だがPPが世に出た91年はもう『D&D』の時代ではありませんでした。89年に出た『ソードワールド』、『ロードス島戦記コンパニオン』とリプレイ集によって、TRPGは物語再現装置としてゲームメディアとしての道を猛進しており、TRPG業界にはライトノベル誌やゲーム総合誌などから多くの物語好きな層が参入してきました。
 この層がTRPGで特に好んだのが、ゲームブックのように対話と描写で物語を進めるアドベンチャーであり、物語を語り合うストーリーテリングでした。
 このダンジョン巡り主体からストーリーテリング主体へとプレイスタイルの流行が変化したことは、PPの特色を根底から揺るがすものでした。TRPGには、HPなどの資源管理を行わない安全な時間が多くなり、その代わりストーリーテリングを行う時間が飛躍的に拡張されていきました。プレイ時間=タイムサバイバルという前提で作られていたPPにとっては「ゲームと見なしていない場面で経験値が貯まる」という事態に陥りました。

 さらに、リプレイの隆盛と定着によってキャンペーンにも物語的展開が導入されるようになり、キャラクターのビルドアップはキャンペーンの主体ではなくなっていきました。そもそも『D&D』にしても迷宮専門だった赤箱から野外での物語付き冒険が楽しめる青箱、異世界冒険や領地経営など個人を超えた冒険向けの緑箱、そしてイモータルに至る黒箱とレベルアップをするに従って冒険の規模自体がスケールアップしていったのに対して、PPのレベルアップはどこまで行ってもキャラクターの増強のみでした。

 云わば、時間が続く限り赤箱状態で楽しむことがPPの存在意義と云えましょう。PPはホビージャパンの作品だけに、RPGマガジン誌による支援を受け、同誌読者をターゲットにしたファンタジーとして一定の地位を築いていました。
 そして、RPGマガジン終焉とともにその使命を一端終えました。

 だが、この当時はまだTRPG作品としてのブランドは残っており、2000年には『パワープレイ・プログレス(以下PPP)』として改訂されています。PPPの執筆陣には『スター・レジェンド』の銅大氏や田中天氏など、現在も活躍する人たちがいます。

 PPPはPPのシステムに加えて、独自のゲーム世界を作れるワールドメイキングの設定が追加されました。これは『AD&D』や『ソードワールド』などのファンタジーTRPGで当時頻繁に行われていたサークル内オリジナル世界でのプレイを前提にした作りをしているもの思われます。
 だが、2000年〜01年の間にも、PPPにとっては不幸なことにTRPG業界はまたしてもプレイスタイルの劇的な変化が起こりました。99年発売の『ビーストバインド 魔獣の絆』以降、試行錯誤が続いたシナリオ運営技術化の動きが2000年の『天羅万象・零』、01年の『輪廻戦記ゼノスケープ』、『プレイド・オブ・アルカナ 2nd Edition』、『テラ:ザ・ガンスリンガー』、『ダブルクロス』などによってハンドアウトとして結実。手作りオリジナル世界が優勢だったTRPG業界は、一気にデザイナーブランド中心の業界へと変化しました。TRPGは作品ごとに独自の世界観を打ち出すことが当たり前になり、PPPのような自作を基調にしたTRPG作品はまったく需要が絶えてしまいました。
 また、シナリオ運営技術の確立によってプレイ時間は「できる限り時間をかけて遊ぶもの」から、「遊び手の都合に合わせて管理するべきもの」へと意識変化が起き、PPと変わらぬ経験値配分であるPPPは益々時代にそぐわなくなっていきました。

 その他の諸因もありますが、かくしてPPPは次々と最新技術を搭載した後発ゲームによって人気を保ち続けることもできず、2008年現在は絶版状態にあり、再販の予定もありません。
 そして2007年末、物語の強いカジュアルプレイを重視しながらゲーム世界を自作する『りゅうたま』の登場によって、PPPはその使命を完全に終えることになりました。

 PPそしてPPPが廃れていった原因は、いずれも時代を読み違えたことにあるかと思われます。どちらも当時主流だったプレイスタイルを踏襲し、泥臭さをなくした作りをしています。だが、時代にとって最先端技術ではなく、どちらかと云えば懐古的であったのが問題であり、単に時代時代の原始的楽しさを洗練したのみでは、ゲームとしてのトレンドは掴めなかったと云えましょう。

 僕もPPはよくプレイしたし、作者の山北篤氏は尊敬すべきデザイナーだと認識しています。だが、現代になって氏の業績が業界に痕跡を残していないという現状を顧みれば、厳しい評価をせざるをえません。
 
 確かに昔を懐かしむ気持ちはありますが、TRPGの遊び手を取り巻く環境は日々変化しているもので、10年前には誰もが自然に遊んでいたスタイルが現在ではプレイすることすら困難になることがままあるのです。
 TRPGは今の遊び手がプレイ可能な環境にも適応できなくなったら、その使命を終えるのです。ここ1〜2年の間に再販されたTRPGも、今遊び手が置かれているプレイ環境に適応できるか否かで、今後の運命が左右されるものかと存じます。

 

 
posted by 回転翼 at 09:01 | TrackBack(1) | TRPG雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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TRPGブログ紹介─回転翼の『パワープレイ』批評
Excerpt:  先日も少し触れたとおり、私はTRPGに関する基礎的な考察を、ある程度のところまでまとめてしまいました。  あとは用語の整理・実証面での注釈・文献整理などを粛々と進めていくことになります。しかしそれ..
Weblog: GOD AND GOLEM, Inc. -annex A-
Tracked: 2008-03-22 05:15
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